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新宿区は住宅地にある約2,000件の民泊を退場させる方針。東京の民泊の価値は、これからはまず所在区と用途地域を見て、その次に利回りを見る時代に。
この数年、「東京で小ぶりな区分を1戸購入して民泊化する」は越境投資家の定番ストーリー。ホテル料金は高止まり、訪日客は伸び、民泊収入は長期賃貸を大きく上回って見えていた。
しかし2026年9月、全国で住宅宿泊事業の登録数が最も多い新宿区が、極めて強硬な条例改正案を示した。ハードルを上げるのではなく、住宅地の民泊を直接退場させる内容だ。
健美家の9月27日付建築士コラムは、これをより大きな文脈に位置づける。東京23区で民泊への姿勢が分化し、ある物件が引き続き民泊運用できるかどうかを決めるのは、区の条例だけでなく建築関係法規になりつつある。
一、新宿区の案:住宅地は実質ゼロ、商業地域は上限を3分の1削減
新宿区の住宅宿泊事業(住宅宿泊事業)の登録件数は2026年8月末時点で3,928件と、全国の市区町村で最多。ごみ出し、深夜の騒音、共用部の利用トラブルが、区が改正を進める直接の理由だ。
区が公表した方針では、住居専用地域および文教地区は原則として新規開業を禁止。商業地域は存続するものの、年間営業日数の上限は現行の180日から120日へ、主に春休み・夏休み・冬休みに集中させる。
重要なのは、既存営業も対象となる点だ。報道によれば、住宅地にある約2,000件の民泊は継続困難になる可能性があり、区内の現行登録の過半に相当する。
スケジュールも概ね示された。2026年10月に意見募集(パブリックコメント)を開始、2027年2月に区議会へ改正案を提出、2027年6月の施行を目指す。日経の報道では、既存施設には約2年の経過措置があり、2029年6月から同様の制限が適用される見込みだ。
ただし、家主同居で苦情に即応できる家主居住型(家主居住型)の民泊については、例外扱いを検討中としている。区長は訴訟リスクにも言及し、目的は管理の強化と居住環境の保全であり、民泊そのものの排除ではないと強調した。

二、同じ23区でも、三つのスタンス
新宿区がここまで踏み込める背景には、国レベルの緩和がある。報道によれば、観光庁は2026年7月、地域の居住・教育環境が損なわれ得る場合、自治体は条例で民泊の営業日数を実質ゼロまで抑制でき、既存施設に対しても騒音計や監視カメラ等の管理手段の設置を求め得るとの見解を示した。
つまり、住宅宿泊事業法の「全国一律180日」という枠組みが、「各区が自ら定める」方向に移行しているということだ。健美家のコラムは、23区内で少なくとも三つの異なる方向性を指摘している。
新宿区は規制強化型の代表例。観光客が集中し、住民苦情が顕在化している区では、居住機能の保全を優先し、用途地域で一律に禁区を設定する。
板橋区は条件緩和型。住居専用地域に対しては、日曜正午〜金曜正午の営業を制限する付加条例を以前から設けているが、家主居住型など苦情に即応できる事業者は、この制限の適用除外とする。言い換えれば、板橋区が重視するのは「どこで開くか」だけでなく「誰が管理するか」だ。

世田谷区は第三の道を進む。協議会を設置し、旅館業法(旅館業法)と住宅宿泊事業法を併せて再検討。条例改正の素案はなお議論中で、地域との共生を志向する。
この三つの区を並べてみると結論は単純だ。同じ東京23区でも、ある物件が民泊運用できるか、何日運用できるかは、所在区と属する用途地域で既に決まる。

三、本当のハードルは建築法規:5月28日の通知
多くの投資家の第一反応はこうだ。「住宅宿泊事業が制限されるなら、旅館業許可に切り替え、簡易宿所(簡易宿所)として通年営業すればよい」。この道は確かにあるが、そのハードルは2026年5月に引き上げられた。
5月28日、厚生労働省と国土交通省の連名通知が発出され、各地の衛生主管部局に対し、旅館業許可の交付時に当該建物が建築基準法(建築基準法)に適合しているかの確認を徹底するよう求めた。戸建住宅や共同住宅を旅館用途に転用する場合、用途変更面積の合計が200平方メートルを超えると、確認申請(確認申請)が必要となる。
最も誤解が多かったのは200平方メートル以下の場合だ。確認申請は免除され得るが、建築基準法への適合義務が免除されるわけではない。本通知は極めて明確に記す。200平方メートル以下でも建築士による適合証明の提出が必要だと。
中古の戸建を民泊化する投資家にとって、これは従来見落とされがちだったコストとなる。避難経路、非常用照明、階段幅員、消防設備、接道要件、未登記の増築など、いずれか一つでも基準未達なら改修が必要。検査済証(検査済証)のない古い建物は、そもそも証明が得られない可能性すらある。
四、120日上限下の損益分岐:Urbalyticsのデータで読む
上限が180日から120日に下がっても、収益への影響は線形ではない。Urbalyticsの賃貸募集データで粗く試算した。新大久保駅圏の賃貸マンションの平均月額賃料は約13.86万円、平均面積は約30.7平方メートルで、年間の長期賃貸収入は約166万円。
民泊の清掃費・プラットフォーム手数料・代行費などが収入の45%を占めると仮定すると、ネット収入で長期賃貸に並ぶために必要な平均宿泊単価は、上限180日の場合で1泊約1.68万円、120日に下がると約2.52万円へと上昇する。しかもこれは稼働日がすべて満室という理想条件だ。
つまり同じ物件でも、上限が3分の1短縮されるだけで、損益分岐となる必要単価は5割押し上がる。「民泊収入が長期賃貸を大きく上回る」ことを前提に価格が支えられていた物件は、このラインが切り上がると採算が崩れ得る。
売買サイドも見ておきたい。Urbalyticsの一棟収益物件の募集データによると、新大久保駅圏の利回り中央値は4.10%(n=49)、高田馬場は4.50%(n=81)、三軒茶屋は4.11%(n=135)、板橋区・大山は5.21%(n=97)。

Urbalytics インサイト 新大久保の賃料単価中央値は4,680円/平方メートルで4駅中最高だが、一棟利回りは4.10%にとどまる。価格には住商混在エリアのプレミアムが織り込まれている可能性が高い。住宅地の民泊退場後、このプレミアムは再検証が必要だ。
注記しておくと、これらの募集サンプルは中小型の一棟物が中心で、商業地域内の物件も含む。直ちに「民泊プレミアム」と同義ではなく、方向感を捉える用途に適する。新宿区の賃貸マンションの賃料分布は、Urbalytics新宿区賃貸マンション市場レポートで確認できる。
対照的に、板橋区の利回りは明確に高く、賃料単価は約3,809円/平方メートル。自ら建物に居住し、家主居住型で運営する意向の投資家にとっては、板橋区一棟収益物件市場レポートの価格帯は新宿より注目に値するだろう。
五、投資家はどう備えるか
海外の事例は、今回の引き締めが短期的な揺り戻しにとどまらない可能性を示す。バルセロナは2028年11月までに市内約1万件の観光住宅許可をすべて失効させる計画。ニューヨークは2023年に短期賃貸の登録制度を導入後、掲載件数が約2.2万件から2,000件程度へと減少した。
東京が両都市をそのまま踏襲することはないだろうが、方向性は近い。住宅逼迫と賃料上昇が進む都市では、民泊は住宅政策の一部として管理されていく。既に保有、または取得を検討する投資家は、次の三点を先に確認したい。
第一に、利回り計算の前に用途地域と所在区の条例を確認する。同じ通りでも両側で商業地域と住居専用地域に分かれ、運用可能性が全く異なることがある。
第二に、運営形態の切替可能性を見極める。住宅宿泊事業が制限された後に旅館業許可へ切り替えられるかは、面積、建築適合性、検査済証の有無に左右される。購入前に建築士による適合性の一次スクリーニングを依頼したい。
第三に、出口(退路)を用意する。民泊が難しくなった際、通常の長期賃貸・マンスリー・オフィス用途へ転用できるか、転用後の賃料が取得価格を支え得るかこそが、当該物件の真の下支えになる。
リスク提示 新宿区の案はなお意見募集と区議会審議を経るため、細部は調整され得る。とはいえ、他区が追随すれば、民泊収入を前提に価格形成された住宅地の物件は、評価と流動性の二重ディスカウントに直面する恐れがある。
新宿区の今回の案は「民泊の終点」というよりも、再分類だ。ルール変更後も運営継続できる、あるいは円滑に居住用途へ戻せる物件の価値は保たれる。一方、180日運用の民泊収入だけで価格が支えられていた物件は、再検証が必要になる。
購入前は、まず区、次に建物、最後に利回り。区別の賃料・利回り分布を比較するには、Urbalyticsの世田谷区一棟収益物件市場レポートなどのエリアページから確認できる。
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参考資料
- 健美家「民泊は本当に追い風か?規制と緩和の二極化すすむ」(安井慎治), 2026, https://www.kenbiya.com/ar/ns/for_rent/minpaku/10546.html
- 東京報道新聞「新宿区、住宅地・学校周辺の民泊を原則禁止へ 既存施設も対象、住環境保全へ規制強化」, 2026, https://tokyonewsmedia.com/archives/27640
- 日本経済新聞「東京都新宿区、住宅地や学校周辺で民泊営業を禁止へ 既存施設も対象」, 2026, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC043YF0U6A900C2000000/
- 日本経済新聞「東京・新宿区の民泊営業禁止、既存施設は29年6月から 2年猶予」, 2026, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC082IH0Y6A900C2000000/
- 厚生労働省・国土交通省「旅館業の許可時における建築基準法への適合確認の徹底について(通知)」健生衛発0528第1号・国住指第164号, 2026, https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T260601H0010.pdf
- 新宿区「住宅宿泊事業と新宿区のルールについて」, 2026, https://www.city.shinjuku.lg.jp/kenkou/eisei03_002086.html
- Urbalytics マーケットレポート 新宿区 賃貸マンション, 2026, https://www.urbalytics.jp/market/area/tokyo/shinjuku-ku/mansion
- Urbalytics マーケットレポート 板橋区 一棟収益物件, 2026, https://www.urbalytics.jp/market/area/tokyo/itabashi-ku/building
- Urbalytics マーケットレポート 世田谷区 一棟収益物件, 2026, https://www.urbalytics.jp/market/area/tokyo/setagaya-ku/building
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